念願の新築マンションに引っ越してから数ヶ月、私はベランダを自分好みのカフェスペースに改造しようと計画しました。コンクリートの殺風景な床が気になり、ホームセンターで購入した木製のすのこを一面に敷き詰め、お気に入りの椅子とテーブルを置いたのです。木のぬくもりを感じる空間になり、週末にそこでコーヒーを飲む時間は至福のひとときでした。しかし、ある夏の夜、事件は起きました。ベランダに出た際、足元のすのこの隙間から黒い影が素早く動き、室外機の裏へと消えていくのを目撃したのです。心臓が止まるかと思いました。これまで室内を徹底的に清潔に保ってきた自負があっただけに、どこから湧いて出たのかという恐怖と絶望に襲われました。意を決して、翌朝私はすべてのすのこを持ち上げてみることにしました。そこで目にした光景は、今思い出しても背筋が凍るような惨状でした。わずか数ヶ月の間に、すのこの下には大量の埃と、風で運ばれてきた枯れ葉、そして得体の知れない黒い粒のようなフンが散乱していたのです。さらにショックだったのは、すのこの裏側に卵鞘と呼ばれるゴキブリの卵のケースがいくつか付着していたことでした。私の憩いの場は、いつの間にか彼らの巨大な繁殖基地に成り下がっていたのです。慌てて全てのすのこを撤去し、高圧洗浄機で床を磨き上げ、強力な薬剤を撒きました。この経験から学んだのは、見た目の美しさと引き換えに、管理できない死角を作ることの恐ろしさです。すのこを敷くことで、ベランダの排水能力は低下し、湿気が籠もり、人間には見えないけれど虫たちには絶好の入り口を与えていたのです。それ以来、私はすのこを直接床に置くのをやめ、脚付きの取り外しが簡単なユニットタイプに変更し、毎週必ず持ち上げて掃除することを日課にしています。ベランダは室外と室内を繋ぐ境界線であり、ここが汚染されれば家の中が守れるはずがありません。おしゃれを追求するのは悪いことではありませんが、その管理責任を負えるかどうかを冷静に考える必要があります。あの黒い影は、私に住まいの管理の甘さを教えてくれる警告だったのだと、今では前向きに捉えています。しかし、二度とあのような恐怖を味わいたくないという思いは変わりません。もし今、ベランダにすのこを敷こうと考えている方がいるなら、私はまず、その裏側を掃除する覚悟があるかを問いかけたいと思います。清潔さは何物にも代えがたい快適さの基盤であることを、身をもって痛感した夏の日でした。
おしゃれなベランダの裏側に潜んでいた黒い影の正体