目の前のチャバネゴキブリに向かって、殺虫スプレーを何度も噴射した。それなのに、敵は少し動きが鈍っただけで、なかなか絶命せず、家具の隙間へと逃げ込んでしまった。そんな悔しい経験はありませんか。「最近のゴキブリは、殺虫剤に強くなっている」という噂は、実は、このチャバネゴキブリにおいて、紛れもない事実となりつつあります。近年、私たちの周りで問題となっているのが、従来のピレスロイド系殺虫剤に対して、強い抵抗性を持つ「スーパー耐性チャバネゴキブリ」の出現です。これは、長年にわたって、飲食店などのプロの現場で、同じ系統の殺虫剤が繰り返し使用されてきた結果、その薬剤に耐える遺伝子を持つ個体だけが生き残り、世代交代を繰り返してきた、いわば「進化」の結果です。そのため、市販のスプレータイプの殺虫剤を吹き付けても、従来のゴキブリのようにすぐには死なず、生き延びてしまう個体が増えているのです。では、この強敵に対して、私たちはなすすべがないのでしょうか。そんなことはありません。彼らの弱点を突く、いくつかの有効な対処法が存在します。まず、殺虫スプレーを選ぶ際に、有効成分を確認することです。もし、ピレスロイド系の薬剤が効きにくいと感じたら、「オキサジアゾール系」や「カーバメート系」といった、異なる作用機序を持つ成分が含まれたスプレーを試してみる価値はあります。これらの成分は、抵抗性ゴキブリにも効果が高いとされています。次に、薬剤に頼らない物理的な攻撃です。「食器用洗剤を薄めた液体」のスプレーは、抵抗性に関係なく、ゴキブリの気門(呼吸するための穴)を界面活性剤で塞ぎ、窒息させるため、非常に有効です。また、「熱湯」をかけるのも、原始的ですが確実な方法です。そして、最も戦略的で効果的なのが、やはり「ベイト剤(毒餌)」の活用です。ベイト剤に含まれる殺虫成分(フィプロニル、ヒドラメチルノンなど)は、ピレスロイド系とは作用が異なるため、抵抗性ゴキブリにも高い効果を発揮します。スプレーで一匹一匹と戦う消耗戦から、ベイト剤で巣ごと根絶やしにする殲滅戦へ。戦術を切り替えることこそが、進化した強敵に勝利するための、最も賢明な道筋なのです。