それは、私がミニトマトの栽培に夢中になっていた、ある夏の日のことでした。毎日、愛情を込めて水やりをし、日に日に大きくなる青い実を眺めるのが、何よりの楽しみでした。しかし、ある朝、いつものようにトマトの葉を観察していると、下の方の葉が、何となく元気がなく、色が白っぽく褪せていることに気づきました。最初は、水切れか、あるいは栄養不足だろうか、と軽く考えていました。しかし、その症状は、日を追うごとに、下から上へと、じわじわと広がっていったのです。心配になった私は、葉を一枚一枚、注意深くめくって調べてみました。そして、一枚の葉の裏側で、私は信じられない光景を目にしてしまいました。葉の裏が、まるで赤い粉をまぶしたかのように、無数の小さな点々で埋め尽くされていたのです。そして、その点々が、ゆっくりとうごめいている。ハダニです。いわゆる「赤蜘蛛」の大発生でした。恐怖とショックで、私の頭は真っ白になりました。私はすぐにインターネットで対処法を調べ、とにかく水を嫌うという情報を頼りに、ホースのシャワーで、葉の裏を徹底的に洗い流しました。しかし、一度や二度では全く効果がなく、翌日にはまた同じ状態に戻っています。その繁殖力は、私の想像を遥かに超えていました。薬剤は使いたくない、という甘い考えは、日に日に枯れていくトマトの葉を前に、もろくも崩れ去りました。私は意を決し、園芸店でダニ専用の薬剤を購入。マスクと手袋で完全防備し、葉の裏まで念入りに散布しました。薬剤を散布して数日後、ようやくハダニの動きは止まり、被害の拡大は食い止められました。しかし、すでに被害にあった葉は元に戻ることなく、その年のトマトの収穫量は、惨憺たるものに終わりました。この苦い経験は、私に教えてくれました。ガーデニングとは、ただ愛情を注ぐだけでは不十分であり、日々の冷静な観察と、時には非情とも思える迅速な決断が必要なのだと。あの小さな赤い点は、私にとって、自然の厳しさを教えてくれた、忘れられない教師なのです。
私のベランダ菜園が赤蜘蛛に襲われた日