それは記録的な猛暑が続いていた八月の末、私が趣味の登山を楽しんでいた際の実体験ですが、蜂の時期がいかに恐ろしいものであるかを身をもって知る出来事となりました。登山口の看板には「蜂に注意」という警告がありましたが、これまで何度も登った山という安心感もあり、私は深い考えもなしに登山道へと足を踏み入れました。今思えば、その時期は蜂にとって一年で最も個体数が増え、巣を守るための防衛本能が最高潮に達しているタイミングでした。中腹あたりの細い道を通っていた時、突然、耳元で「カチカチ」という不気味な音が響きました。それはスズメバチが相手を威嚇する際に発する警告音であることを、当時の私は知りませんでした。直後、茂みの中から巨大なキイロスズメバチが数匹飛び出し、私の周囲を旋回し始めたのです。パニックになりかけた私は、思わず手で振り払おうとしてしまいましたが、これが火に油を注ぐ結果となりました。蜂たちはさらに激しく羽音を立て、私を標的に定めたかのように執拗に付きまとってきたのです。幸い、その日は白いウェアを着ていたことと、すぐに姿勢を低くしてゆっくりと後退したことが功を奏し、直接的な被害は免れましたが、あの一瞬の静寂を破る羽音と殺気は、今でも忘れられません。後で調べて分かったことですが、八月下旬から九月にかけては新しい女王蜂を守るために働き蜂が非常に過敏になっており、登山道周辺に作られた巣の近くを通るだけで、侵入者と見なされて攻撃を受けるケースが多発しているそうです。この体験以来、私は蜂の時期を意識して活動のスケジュールを組むようになりました。特に最盛期には山に入るのを控え、もし行く場合でも黒い装備を一切排除し、蜂の生態について深く学んだ上で臨むようにしています。蜂という生き物は、自分たちの生活を守るために必死に生きているだけなのですが、その活動がピークに達する時期の力強さと攻撃性は、人間が軽んじて良いものではありません。自然の中に足を踏み入れるということは、彼らの縄張りにお邪魔するということであり、その時期に応じた礼儀、すなわち警戒心と知識を備えておくことが不可欠であることを、あの夏の暑い一日に教えられました。蜂の時期という言葉が持つ重みを、私はこれからも忘れずに、山と向き合っていきたいと考えています。