翌朝、目が覚めると、腕や足に無数の赤い発疹ができており、猛烈なかゆみに襲われる。一つ一つの刺し跡は小さいものの、その数が尋常ではなく、中には小さな水ぶくれになっているものもある。こんな不可解な虫刺されの犯人は、肉眼ではほとんど捉えることのできない、極めて微小な吸血昆虫、「ヌカカ」である可能性が高いです。ヌカカは、体長わずか1~2ミリ程度と非常に小さく、一般的な網戸の網目さえもすり抜けて家の中に侵入してくることがあるため、「スケベ虫(見えないのに刺してくるから)」という不名誉な俗称で呼ばれることもあります。彼らは、ブユと同様に皮膚を「噛み切って」吸血するため、症状の現れ方が非常に似ています。刺された直後はほとんど自覚症状がなく、翌日以降になってから、強いかゆみと赤いブツブツ、そして時に小さな水ぶくれが現れます。ブユとの大きな違いは、その「被害の範囲」と「発生場所」です。ブユの被害は数カ所に集中することが多いのに対し、ヌカカは体が小さく、一度に多数の個体が肌にとまって吸血するため、被害は数十カ所に及ぶことも珍しくありません。まるで発疹のように、広範囲にわたってブツブツが広がるのが、ヌカカ被害の典型的な特徴です。また、生息場所も、きれいな渓流を好むブユとは少し異なります。ヌカカは、海岸の砂浜や、水田、沼地、あるいはゴルフ場の湿った芝生など、より広範な湿った土壌や水辺で発生します。そのため、山間部だけでなく、海辺のレジャーや農作業中にも被害に遭う可能性があります。そのあまりの小ささゆえに、私たちは襲われていることにすら気づきません。風で何かが肌に触れたような、わずかな違和感程度しか感じないのです。そして、翌日になってから、その凄惨な結果と向き合うことになります。気づかないうちに、静かに、しかし執拗に私たちの血を狙う、このステルス性の高い吸血鬼。原因不明の多発性のかゆみに悩まされた時は、この小さな犯人の存在を疑ってみることが、解決への第一歩となるでしょう。